本の海

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本の海

扉を開ける そこは海 私の大好きなものが溢れている そこは海 窓から差してる 透き通った光 優しい明るい 太陽色 ふんわりといい匂いがする 人と人の「はいどうぞ」の匂い 誰かと誰かの「これ、好き」の匂い 何度も何度も違う人が たくさんの人が愛した匂い 古い本ほどたくさんの匂いと思い出が染みついて ページをめくるたびにそれがふわって飛び散って パアッて花火みたいに弾けて その瞬間が好き 赤 青 黄色に白 色んな色の背中は 見てるだけで安心する 優しい森の匂いがする 木の机 グラグラしてバランスが悪い 木の椅子 黄金色の日光で 落書きも傷も優しく染まった 木のカウンター そこで座って本を読んでいる先生も 黙っているけど 目が「好き」って言ってる 私は本を選ぶ この海の中でたった一つの「私だけ」を見つける 大変なことだけどとても楽しい 私はここがとても好き 選んで 棚から抜いて 表紙を見てワクワクして 題名を見てドキドキして そしてゆっくり カウンターに行く すると先生は顔を上げる 「あなたも好きなんですね」 そう言って本の題名を確認しようと 手に取る それでまた 本にいい匂いが増える 私は返された本を抱きしめる 図書室の優しい声 私は本の海を出て 見つけた「好き」のページをめくる
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