ひだりどなり

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「俺今日は4限まであるけど、終わったら郁(いく)ちゃんも一緒にラーメン屋行く?」 「え!いいんですか!行きたいです!」 彼女は即答した後、嬉しそうに笑った。それはもうキラキラとした瞳で。まるで漫画に出てきそうな目がハートになってる人の実写版みたいに。そんなハートの目に気付いているのか、いないのか、翔太は早速ラーメンの話を始めていた。 待ってよ、俺には何も聞かないのか?郁ちゃんて……おまえ知り合ったばっかの女の子の事そんな風に呼んだりしないだろ?いつも2人で行くラーメン屋に連れて行くつもりかよ……いつからそんなに仲良くなったんだよ。何でそんなに嬉しそうに笑ってんだよ……俺、大学来るの3日ぶりだと思ってたけど、もしかして半年くらい休んでた? 翔太が翔太じゃないみたいだ……。おまえ彼女なんて居た事ねぇだろ……。女の扱いとかわかんねぇくせに。 いつも好きな子が出来たって告白どころか、話しかけたりすらできないくせに。 おまえはいつだって俺のとなりにいた筈なのに。 「2人で行って来いよ。俺病み上がりだし、ラーメンはちょっとキツイから。」 翔太の顔も彼女の顔も見ないままそう言って、俺はその場から足早に立ち去った。 3人並んでラーメンなんか食えない。食えるわけがない。 「うぉーい!待てよ。もう帰んのか?まだ調子悪いの?大丈夫?」 背中で間抜けな聞き慣れた声がして、俺は足を止めて振り返った。 「何しに来たんだよ。何追いかけて来てんだよ……。」 「いや、だって、おまえ急に帰っちゃうからさ!びっくりすんじゃん!」 「良い感じだったから気効かせたんだよ。わかれよ。」 「え?マジ?おまえそんな事出来る奴だっけ?」 ヘラヘラ笑ってんじゃねぇよ。人の気も知らないで……。 「好きなの?あの子の事。」 「え?……いやぁ、別にそんなんじゃねぇよ。てか、おまえ何か怒ってない?あ!もしやおまえ郁ちゃんの事狙ってたりする?」 「…………じゃない。」 「え……何て?」 聞き返す翔太の肩を掴んで思い切り引き寄せ抱きしめた。 翔太は訳わかんねぇって感じで、「ちょ、何?どした?」とか言って、俺の突然の行動に戸惑っていた。抱きしめながら頬に触れる髪に視線を移せば、俺の好きな翔太のつむじがそこにはあって、なんだかもう堪らなくってしまった。
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