ひだりどなり

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もうダメだ。もう限界だ。そんな事は随分前からわかっていた。今まで幾度となくこの想いを何とか心の奥に沈めてきた。 けれどもう……抑えきれない。 「なぁ?おまえ本当にどうしちゃったの?てか、何で俺の事抱きしめてんだよ?」 「郁ちゃんじゃなくておまえだ……。」 「へ?何?何が?…….とりあえずもう離せって。」 「嫌だ。離さない……好きなんだ。翔太の事が……。」 みっともないくらいに声は震えていた。 俺の腕の中で固まる翔太が何を思ったのかを考えると頭がおかしくなりそうだった。 長い沈黙の後で俺の腕を解き、困惑の中で絞り出すように返された、「マジ……か。」の一言が胸に突き刺さった。 翔太の掠れたその声が頭の中を何度もぐるぐると回っていた。 いつもとは別人みたいな翔太に動揺して、俺にしか見せないような笑顔を彼女に見せる姿に腹が立って、思わず溢れ出てしまったような呆気ない告白だった。 今まで黙ってきたのは、守ってきた友情はどうしたんだってくらいの。 出会ってから11年。俺は長年の片想いに別れを告げた。 それから3ヶ月、新しい春が来た。俺はサークルをやめた。元々興味があった訳じゃない。翔太と出来るだけ一緒に居たくて入っていただけだったから。もうその必要はなくなった。 いつものラーメン屋、俺の右隣にはもう左利きのあいつはいない。
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