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地元には昔ながらの洋品店があったが、私が中学に上がる前に廃業した。
薄汚れた店内の奥にひっそりと裸のマネキンが三体ほど、乱雑に放置されているのを横目に通学していたものだった。
マネキンはどれも首なしで、手や足もなく埃まみれの床に横たわっている。
マネキンと分かっていても薄気味悪く、早く片付けて欲しいものだといつも思っていた。
ある日、友人達との間に肝試しの話が持ち上がった。
行き先はあの洋品店だった。
特に悪い噂を聞くわけでもないその場所だったが、肝試しという魅力的なキーワードに私は二つ返事で参加した。
日が落ち始める時間帯に、友人三人と共に件の洋品店に忍び込んだ。
ひんやりとして埃っぽい店内の隅には、やはりあのマネキンたちがいた。
いつもより暗いせいか、余計に近寄りがたい禍々しさだった。
一通り中を探索し、早々にやる事がなくなった我々がその場に座って話し始めていた時の事だった。
「マネキンのおっぱいでも揉んでみるか」
肝試しを提案した友人が、ふと思いついたのだろう、ふざけてマネキンを近づいた。
マネキンの胸の先を人差し指でつつき、両手で膨らみを包むような動作をする友人に、私達は苦笑いをした。
「お前らもやってみろよ、ほら」
そう言われて断るほど純情とも臆病とも思われたくなかった私達は、微妙な顔をしながらマネキンの所に向かった。
「うら、一人一体な」
マネキンを横に並べられ、逃げ出すきっかけもとうとう消えた。
おざなりに触って終わらせよう。
そう思い、私は指で軽く触れて終わった。
他の二人も微妙な顔で覚束ない手つきで揉む真似をした。
「かってぇマグロ女だよな」
そんな事を言って、友人たちは下世話な話を始めた。
だが私は、その話の輪に入ることは出来なかった。
軽く触れたマネキンの胸が、指の形の通りに凹んだという事実をどう受け止めていいのかわからなかった。
私の異様な雰囲気を三人は感じ取ったのか、その後すぐに肝試しはお開きとなった。
次の朝、私はいつも通り薄汚れた洋品店の前を歩いた。
嫌な気持ちを抱えて、ガラスの中をのぞき見る。
やはりマネキンは三体しかなかった。
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