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hallow world《ようこそこちら側へ》
「では、3次適性検査を始めます、VRを設置してください」
言われた通りにVRをかける。
「5秒後に接続します、5.4.3.2.1」
視界が切り替わる、不思議なことにVRの違和感すらない。
腕振れば腕が動き、足を振れば足が動く。つまるところ『自分のやっていた環境とは全く異なっていた』
「あー」
と声を上げてしまう。コントローラーなしの実挙動なんて無謀でしかない。
『キャンセルしますか yes no』
ノーを選択し別の依頼を受ける。
爆発音が聞こえる無理
遺跡? 推理とかできない無理
無理、無理と何十も破棄を繰り返しようやく出来そうな依頼が出てきた。
手には紙を持っている、内容はわからないが瓶が見えるからこの瓶を買えばいいんだろうと推測する。しかし売ってる場所がわからない。時間もわからないしやけくそだ。
近くにいた通行人に紙を見せ、ボディランゲージで説明する。
「◯△」
どうやら通じていない。
「これ、これ売ってる店」
「△△」
近くの店を指さす。
「サンクス」
お礼をいい走って店に行き先程と同じ行動をする。
店のなかはいかにもな個人経営店だった。
「これ、これをくれ」
店長に紙を見せる。後は金、多分財布があるはずだ。
ズボン等を探す。しかし何にも持ってない。
「嘘だろ」
ここに来て失敗。いやまてまだ何とかなるはずだ。見たところ誇り臭くなっている。
「これ、拭くから、これ、くれ」
ジェスチャーの後土下座をし、必死にアピールする。
「◯×△」
頭に何か被さる、手に取れば肌触りのいい。
「布だ」
店長らしき人物が鎧を指差す。
後は必死だった。限界まで拭き続けた。
鎧が終われば、剣、剣が終われば瓶。
机、椅子。バケツを借りて絞り、水を取り替え。
布から雑巾へと代わり、床掃除をしているとき。
「○○△×」
「△△」
なんだ、この声は子供?
清潔になった部屋に、子供が一人増えている。
机の上には瓶が置いてある。これで1つクリアか。
「○▽◯」
子供がこっちを見てくる……これはどっちだ。
子供にあげるのが正解なのか、それとも誰かに渡すのが正解なのか……いや、誰に渡すか知らないわ。
「くっそ、持ってきやがれ」
正解がわからんし渡すしかない。頼む正解であっててくれ。
「▽××△」
何いってるかわからねぇよ。
「知らん、わからん」
瓶を子供に掴ませる。
「頼む合っていてくれ」
「△□」
ドアから出ると、雰囲気が変わる。
「はーい、採点の時間」
監督者だろうか、スッゴい美人だ。
「えぇ、ありがとうねそれで君の評価だけど……」
宙に画面が映し出され評価が出てくる。
積極性 ‐
状況判断 B
知識力 C+
コミュニケーション B+
持久力 S+
性格 善-
高いのかどうかわからない。
「総評としては、そこそこ良いけど不合格だね。積極性がなかった」
最初のキャンセル連打が問題かぁ。
「……普通はね?」
「えっ」
「僕はね、持久力が高いのは好きなんだ。ほらデバッグには持久力が必要だろ?」
これはひょっとして受かった?
「だもんで、後何か1つあったら追試をさせてあげよう」
「あと1つってなんですか?」
「俗に言う特技の披露かな。なにかないかな」
それならある。とっておきのが。
「私は指でスイカを割れます」
「はい、じゃあやってみて」
ごとと、机とスイカが用意される。さすがVRよくわからないで納得させるな。
「ではいきます」
指を痙攣させるように震わせ、スイカに当てる。
「何も起きないけど?」
「少し時間がかかるんですよ」
よくはわからないが、数十秒経つと
パンとスイカが割れる。
「割れましたよ」
「割れたね?」
あれ、受けが悪い。
「もう一回やってみてみ」
もう一度同じようにスイカが割れる。
「他のも割ったことある?」
「カボチャはいけた気がします」
あとはリンゴとか果実系は結構試した。どれでもこいだ。
「うーん、思ったのと違うけどオッケー。追試を認めるよ」
よっしゃ。小さくガッツポーズをする。まさかまだ可能性が出るとは思わなかった。
「認めるけど……君……あぁ。磐佐君は積極性を見せられるかい?」
そこがやはり問題なのか。いうしかないか。
「VCG《バーチャルコントロールゲーム》ならできます」
「VCGって……あぁそっちの人間なのか」
やっぱりVRG《仮想現実ゲーム》にVCG《仮想アナログゲーム》だけで来るのは無茶だったか、いやでもVR高いし。筐体中古で50万とかするし。
「ふむふむ、ならこれでどうだい」
体の感覚が無くなる。
「っ」
焦るな、落ち着け。ここで驚愕したらマイナス評価だぞ。
体が透明になり、透過性のコントローラーを持っている。
自分の動作は透明の体の動作になり色のついた本体はコントローラーで動かせる。
「後はこれがあればできるかな」
最近やってるゲームのチェーンソーが出てくる。感触もうん。問題ない。
「これならできます」
「なら今から追試を始める。頑張って内定を勝ち取り給え……」
最後にボソっと何かを言って気がするが、まぁ今は気にしてる余裕はない。
最初と違い目の前には積極性の相手と思われる。巨大牛のような何かがいる。
「バーは……ないのか」
魔力、体力、気力全て表示がない。
「まぁやるしかないか」
大牛の突進をかわし、チェーンソーで切りつける。
回転はボタンの連打数だ。通常は加減してやるけど。
チェンソーが止まってしまう。
「ブヒィ」
一旦攻撃をやめ離れる。
「ブモー、ブモー」
どうやら怒らせてしまったようだ。
「しゃあないか」
先ほどと同様、痙攣させボタンを連打する。
「おっと」
睡魔のようにガクッと吸い取られる感覚がする。なるほどこれがVRGなのか。
「こりゃ一撃でやらないとな」
まっすぐ突っ込んでくる牛にステップを踏み半歩横に移動し。そのまま切り裂いていく。
「うぉぉぉぉぉ」
だるさと痛みが両方襲ってくる。きっとコントローラーでなければ。手を離していただろう。
「こんちくしょーー」
ガリガリと音を立てながら牛の身を裂いていく。そしてボンと音に元の場所に戻る。いや違う。
「いやぁおめでとう、合格だよ」
……おかしい。なんでVRをかけた部屋に戻ってる?
かけてるはずのVR装置は消えている。これはどっちなんだ? 現実か仮想か?
「あぁ、チェンソーは置いて貰って良いわ」
仮想なのか。そうだ仮想なんだな。でなければゲームの中のチェンソーがあるわけがない。
「すみません。ゲームオフをオフにしてくれませんか?」
「オフ? 最初から全て現実だよ」
「冗談がきついですよ」
「冗談? 本当の事のことだよ」
仮想と同じように現実にも画面が出てくる。
「全て本当よ。何もかも現実」
「はは、ジョークにしては……」
「今の技術じゃあんな感覚共有するゲームなんてできない。まぁ信じないならそれでもいいけどね」
審査官は紙を渡す。
「これは?」
「契約書。今ここで最終をする。まぁもう内定は決まってるけど」
今ここで、なんで?
「磐佐君は結局私が欲しいから取るわけで、よくいう部署内定後の本内定みたいな感じかな」
「だから、今ここでサインをすると」
「しなかったら、内定辞退とみなすよ。代わりにサインしたら他の企業を辞退して貰って別の誓約書を書いて貰うけど」
もう一つ紙が出てくる。
「私は内定を進めるわ。まぁその前に契約書の内容だけど」
紙には知らない文字が書いてある。書いてあるはずなのに頭がそれを読んでいる。
契約をしない場合は忘却書にサインすること。
契約した場合は終身雇用とする。退社は個人の理由できない。
いかなる障害もhalloworldは責任を負わない。
なんだこの内容は、馬鹿げている。
契約した場合は八百万の契約に乗っ取り。別世界の仕事をして貰う。
給料とは別に仕事の報酬を支払う。なお報酬の前借りをした場合期日内への返却が必要。出来ない場合は50年以上の依頼を受け、強制徴収する。
なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは。
「なんなんだ。なんで理解できる?」
「契約書さ」
こんなの契約書ではない……いや内容は契約書なのか。
ふぅ、落ち着け。
頭を確認してもVR装置はない。
「給料は日本円ですよね」
「日本円でも支給するよ」
他にも何かあるのか。
「仮に契約するとして、家などに帰れますか」
「帰れる。ただ内定後に現実に戻れるかな」
どういう意味だ。
「考えてもみなさい。竜を倒す人間に抱きしめられた一般人はどうなると思う」
「少し痛いぐらいですか?」
「即死だよ。簡単に引きちぎれる」
ぞわっと悪寒が走る。
「車、電車にぶつかっても死なないよ、缶は簡単に潰れる。君に持てる物はあるのかな? そもそも普通に歩けるかな?」
「そんなに……ですか」
「私の忠告を無視して大事な人を殺した人を何百とみてきたよ」
そんなになってるのに放送されないのか。
「私達はちゃんと政府と繋がってちゃんと飴をあげてるわ。最近よく新素材や新エネルギーが出てるでしょ」
はは、何の陰謀論だこれは。
「まぁ、嘘でもどっちでもいいわ。貴方がこれを書いてくれれば」
契約書に目をやる。よく見れば紙なのに薄く文字が光っている。
「大丈夫、私はスカウトした人を絶対に潰さないわ」
問題はそこだけじゃない。
「貴方も憧れたことあるでしょう。剣と魔法の世界に。そう大きく考えなくてもいいんじゃない? トラックにひかれない分簡単よう」
無茶を言う。
「じゃあなんなら納得するわけ」
とりあえずこんがらがってる今は無理だ。
「なら、忘却書を書きなさい。それで内定辞退で終了。貴方には不合格を送っとくわ」
どうする、どうすればいい。
何がなんだがよくわからない。
「試験はどうだった、楽しかったでしょ?」
楽しかったが、
「将来が不安? 別にそれは何処に行ったって不安よ」
それもそうだが……あぁもう。
踏ん切りをつける。最初は無理だと諦めてた場所だ。受かるなら受かってやる。
契約書にサインをする。たとえこれが違っても結局公開はする。なら前のめりの後悔だ。
「血判をここに」
チェンソーの刃で指を切り、判を押す。
「おめでとう、契約はなされた」
悪寒が強くなる。何かとんでもない事をしてしまったように感じる。
「halloworld《ようこそ、こちら側へ》」
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