みつるさん

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「ミルクティーさんですか?」  ゆきこは振り向いた。ベージュのトレンチコートを着て、赤いニット帽を被った背の低い男が立っていた。  じっと2秒間彼を見つめたあと、ゆきこはニッコリと女神のような笑顔を作った。 「はい!みつるさんですね。初めまして、お会いできて嬉しいです」  だらしない顔なりに強張った表情をしていたニット帽は、安堵の表情を見せる。 「ああ、良かった。間違えたらどうしようかと思って。でも、若い女のコでトリーバーチのバッグ持ってるの珍しいなあおもろいなあ思って、多分この人やろうな、ってビビっと来たんですよ。あ、あのね、そう僕ちょおっとだけそういう関係の仕事してたんで、女性もののブランドとか詳しいんですよね。ほんと、ちょっとだけやけどね」  ニット帽は関西出身者が聞いたらきっと苛立ちが止まらないだろうと思われるような、無茶苦茶なイントネーションで一気にまくしたてた。声が大きい。ゆきこは少しだけ顔をしかめた。 「いやぁ、あれですね、お写真で見るより5割増で綺麗ですね。大当たりですわ」 「そうですか?ふふ、ありがとうございます」  当たり前だろ、とゆきこは思った。彼女は敢えてほどほどに可愛くない写真をプロフィールに使用している。 「ほな、お食事でも行きましょか」 「ホテル行きましょ」 「んええっ??」  ゆきこが今月出会った男の中では一番の驚きようだった。 「嫌ですか?」 「え、あ、嫌じゃないです、です。いやぁ、なんか、初対面でそんないきなり、ねえ。悪いですよ。まるで僕がシたくて来てるだけの男みたいじゃないですか。でも、ミルクティーさんが行きたいなら全然僕はお付き合いしますよ」 「やったぁ?」  ゆきことニット帽は腕を絡めてホテル街の方面へ歩いていった。
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