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私の目の前の人がこのように泣くのも怒るのも、本当に久しかった。
そして、初恋の人をこんな風に泣かせてしまう自分がただひたすらに恥ずかしかった。フツフツとした自分への怒りが、私をだんだんと目覚めさせる。
「ごめん、俺何やってるんだろう」
「…これ、渡すつもりだったヤツ」
いつの間にか私と彼女の間を別つように、ボロボロになった箱が置いてあった。手のひらサイズの汚れた箱が。
「それで‥色んな場所に行って、沢山の人に会ってきて」
クシャクシャになった包みを丁寧に開けていくと中には定期入れが入っていた。角が泥で汚れていたが、それすらも愛おしかった。
「ああ‥ありがとう」
「でも、私のことは忘れてね」
言いたいことは、なんとなく分かっていた。
〝前に進めるように〟
「ごめんやっぱり、たまにはちょっぴり思い出して欲しいかも」
彼女は少し悲しそうに笑った。いつか、どこかで見たように泣きボクロがきゅっと上がる。
そのままゆっくり私に顔を近づけると、頬に感触のないキスをした。
「先に逝ってるね」
「うん」
ハッと気がつくと目の前にはバスが停まっていて、彼女は消えていた。
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