消えよ青春

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と、先日までは固く強く胸にあったはずなのだ。確かに。 「都内の大学に行くんだって?」 授業終わりの昼休み。母の拵えた、岩石の如く硬いおにぎりに噛り付いている私に対して、そう声を掛けてきたのは幼馴染みのカオリだ。そして彼女は何を隠そう、私の初恋の人である。田舎特有の〝暇〟という脅威と共に闘ってきた長年の戦友でもあるが。 しかし、見慣れたはずのその澄んだ表情も決して飽きはしない。むしろハッと我に返ると彼女を視線で追っている私がいるし、私の無意識はそれに飽きることもないのだ。何故ならそう、恋をしているから。 そろそろ鬱陶しいと感じる人もいるだろうから、彼女のことはそれくらいにして会話に戻そう。 「前から話してたろう?」 「まあね、でも本当に行っちゃうのかと思ってさ」 「なんだよ、寂しいのか」 ニヤリと笑い、意地の悪い問いをしてみる。きっと彼女のことだから、「違うよ、馬鹿」などと返してくるだろう。そう高を括っていた私だったが、今日のカオリは何かがおかしかった。 「もちろんだよ、寂しい」 彼女は眉間に皺を作りながら悲しそうに微笑む。笑うと彼女の右目下の泣きボクロがきゅっと上がる。それが私は大好きであり、私の恋心を尽く貫いた最強の武器でもある。だがしかし、今回の笑みによる泣きボクロはそんな可愛らしいものには到底見えず、その名の通り涙の様だったのだ。それにより私の受け応えは二秒の遅れを取った。 「…どうしたんだよ、らしくないな」 「何が?」 「寂しい、だなんてカオリらしくないって言ったんだよ」 「酷いなぁー、本心だよ?」 今度は彼女がニヤリと意地悪そうに笑う。こんな彼女を見る度に〝都会への執着心〟がジェンガの様にゆっくりと揺れ動く。この故郷を去る上で一つ心残りと言ったら彼女だろう。だが一度は決めたこと。心を鬼にして大学の指定校推薦を獲得したことにより、後に引くことも出来はしない。 それでも、彼女に想い告げぬまま出て行く気は毛頭無い。 私がヘタレポンコツ野郎であったばかりに、こんな切羽詰まったタイミングでしか告白のチャンスを見出せなかったのは非常に悔やまれるが、ヘタレポンコツ野郎でも野郎は野郎。男として絶対に成功させてやるのだと、心に刻み、今日この頃を生きている。
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