消えよ青春

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目覚めの良い今朝は、普段よりも空気が凍っていた。 ベランダに通づる窓はカーテンによってぴしっと閉ざされてはいるが、その縁からは朝日と共に、身を一瞬で冷え固めるような冷気も差し込んでくる。それもそのはず、天気予報が久々に的中し、白雪が我が故郷を跡形も無く塗りかえてしまったのだ。 「さむー!」 高校行きのバスを寂れた停留所で待つ中、カオリが思わずそう叫ぶ。まあ、それも仕方ないだろう。ただでさえ気温が低いにも関わらず、さらには無駄にびゅうびゅうと強く風が打ち付けて来るからだ。路面は雪で覆い尽くされ、除雪作業もろくに進んではいない。 私も、遂にはこの極寒に悲鳴を上げ、近くの自販機で温かいお茶を二つ購入した。 「ほら、飲みな?」 彼女は最初、申し訳なさそうに少し遠慮をしていたが、突風がまた強く吹き付けると、震えた声で〝ありがとう〟と応え、オーブンミットの様なあの羊の手袋でぱくっとボトルを掴んだ。 「手袋越しでもやっぱり沁みるなぁー、温い、温い」 彼女の両目がゆっくりと閉じられる。 掴んだボトルをぎゅっと手のひらに包み込むと、そのまま冷たい頬にぴたりと当てた。 その表情は脆いガラスの様であり、今に儚く壊れてしまいそうにも感じる。しかし、この雪景色も相まってなのかは知らないが、彼女のそんな姿も言葉では言い表せぬ程とても綺麗であった。 朝からこんな甘い気持ちになっていても良いのだろうか。脳内でぐるぐると問いを巡らせるが、やはり私は私なのだろう、〝別に良いでないか〟といった腑抜けた答えしか出ることはなかった。
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