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「当時の私は、恋に気付けず……私へ、師以上の思慕を素直に伝えてくるズーシュエを、袖にしていたのだ」
ユキは、其の言葉に俯く。何故だろう、記憶は無いのに、話された事にとても哀しい感情が湧く。此れは、ズーシュエの哀しみなのか。分からないが、哀しみだけを覚えている。マオの言葉は続く。
「ズーシュエは人の子、人の世界へ返さねばという使命感が勝ったのだ……其の判断を、リンと話しているのを聞かれてしまった」
ユキは、顔を上げる。
「え……」
其の、先が気になる。もしや、あの時己が見た幻影。酷く悲しんでいた、ズーシュエの背中を思い描く。
「ズーシュエは、我等と別れ、其の為に記憶迄消される事を知り、絶望したのだろう。全てを忘れ、皆と別れる位ならばと……薬を煽ったのが事実だ」
マオは、憂える瞳でユキへと真実を告げた。あの時、息絶えるズーシュエを前にして初めて気付いた思い。
「其の時に、汝へ約束した」
「約、束……?」
静かに、頷くマオ。
「其の魂を、必ず見付けると……其の時こそ、必ず愛を告げようと」
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