哀しい記憶。

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 瞬きの間に、マオの私室へとやって来た。ユキは、落ち着かぬのだろうマオより視線を反らし俯いている。側の長椅子へ腰を下ろしたマオへ、遠慮がちに近寄ったユキ。 「あっ……」  ユキの腕が前へ引かれ、倒れそうになる。その身は、マオの腕の中へおさめられると、震え出してしまった。呪いのせいだろう。マオの掌が、優しくユキの髪を撫でてくれるが、ユキはマオの優しさが怖いのだ。マオも、分かっている。其れでも、ユキは己より離れない。掌を、払う事もしないのだ。マオは、ユキの己への強い思いを信じる。徐に、開いた口。 「ズーシュエは、私が気紛れに拾うた人の子であった」  ユキは、語り出したマオの声に驚く。震える手で、マオの衣の胸元を握り締める。 「利発で、素直で……清い子であった」  そう続けるマオ。此処で、不思議な思いに触れるユキ。此れは、記憶の無い前の己。今の己の事では無い筈なのに、妙に擽ったくて、恥ずかしくて。とても、嬉しくて。何故、そう思えるのだろうと。確か己は、ズーシュエへ嫉妬をしていた筈だと。
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