名実ともに。

5/7
前へ
/147ページ
次へ
 其れが、黒龍の答えであった。しかし、レイはどうした事か、此の黒龍の言葉に震えていた身が止まった。レイ本人も分からないが、黒龍とマオにはレイの心が見えた。暗く濁った心、其れを神である黒龍へ吐き出した事で、其の苦しみより解放されたのだ。  続く、黒龍の声。 「だが、其の心の呪縛は憐れだ」  レイは、徐に黒龍を見上げた。其の表情にも、恐怖一色しか見当たらなかったと言うのに、穏やかなものへと。 「今一度、天へ還るが良い」  そう静かに言うと、玉座より立ち上がった黒龍は、徐にレイへと歩み寄る。近付く、神々しい存在。レイは再び其の姿を直視すべきでは無いと頭を下げる。しかし、其方迄歩み寄って来た黒龍は、レイの顎へと手を掛け上げてやった。 「魂は許してやろう。再び無垢な心を取り戻せ……俺の気が向けば、又此処へ連れて来てやっても良い……マオ、此れならユキは駄々をこねんだろう」  マオは再び、厳かに黒龍へと拜をする。 「黒龍様の御言葉に、異論等御座いませぬ」  其の声を聞いた黒龍は、レイを見詰めている。レイは、此れより今持つ魂の器を奪われると言うのに、不思議と心落ち着いていた。そして、徐に顔を上げる。 「ユキは、お前に友となって欲しいんだとよ」  其の言葉に、肩を跳ねたレイ。続き震える身、そして涙を流した。
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加