町に住み着く神の使い。

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 マオの瞳は冷たくタクの頭を見詰めた。彼に礼を言われる筋合い等無いが、と。が、人の子相手にみっともないと視線を外し溜め息を吐くマオがユキへ顔を向けた。 「では……君と、君の母君が都合の良い日は?」  マオの口から出た、己の母親の心象に合わない言葉に一瞬目を丸くしたユキだったが、慌てて我に返った。 「あっ、母は主婦なので何時でも……!今週の土曜日とかどうですか……?」  少し上にあるマオの顔を除き混む様なユキ。マオは、少し考える。『土曜日』とは、人が日々の目安として定めているもののひとつだった筈。先程携帯電話の画像にも其れが現れていた。確か、本日から数えると。 「明後日か……昼過ぎで構わないだろうか?」  表情も、声も静かで落ち着いた了承の声に。 「あ、はい!此の間お会いした近くのコンビニに居てくれれば、迎えに行きます!」  明るく返ってきたユキの言葉に、マオは思わず笑みを溢した。ユキは又声を忘れる。又だ、又胸が苦しい程鳴り出した。顔が熱い。 「分かった……では、失礼」  マオはそう言い、立ち去ろうとする。背を向けた処で、ユキが再び慌てて呼び止めた。 「あ……あの、すみません!お、お名前を、教えて下さいっ」  思い切って出た声は、少々大きなものに。幸いな事に騒がしい店内。側にいた僅かな者達が顔を向けた程度で済んだが、隣のタクは目を丸くしていた。そんな中。 「マオ」  マオが名乗る声。 「まお、さん?」 「ああ。では、此れで」  マオは騒がしい店内から表へと出た、ほんの少し和らいだが日はまだ熱い。ふと、再び胸元より取り出した携帯電話。掛ける相手はリン。取り敢えず、報告すべき事が出来たのだからと。
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