其の瞳は。

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「――此方、全部発送の準備整いました」  ユキの声に、リンはユキが仕上げた仕事を軽く確認するとユキへと向き直る。 「もう、わざわざ見てなくても良いかな。簡単な仕事だし、研修も本日迄で。取り敢えず、今は暇なのでお茶でも淹れましょう」  リンがそう言って給湯するための一角へ足を向けた。が、ユキが先を行く。 「あ、其れは俺が!雇われなので……あ、マオさんは?」  奥の机でパソコンに向かっていたマオへ訊ねると、マオが顔を向け頬笑む。 「そうだな、頂こう」  一瞬顔が熱くなるも、誤魔化すように茶の準備を始めるユキ。見た事もない、高級そうな茶葉の入れ物が幾つか並んでいた。何れを使うべきかと思ったが、取り敢えずよく減っているものを選んでみた。しかし、量はどの位なのか、高級なものは其れなりに淹れ方というものがあるのだろうかと悩むが、己が、と申し出た手前聞くのも格好がつかないと勘に頼ってみたユキ。 「ど、どうぞ」  妙な緊張感の中、マオの机へと茶を置く。と、熱いかと思ったが平然と飲んでくれた。そして、ほんの少し緩んだ口許にユキが少し不安になって。 「ちゃんと出来てますか?」  訊ねてみたユキ。 「いや……少し、懐かしくてね」  そう言って微笑むマオへ、ユキの鼓動が一度大きくなった。 「え……」 「何でもない。有り難う」  固まったユキを気にするでも無く、静かに茶托へ湯飲みを置くマオ。ユキは我に返り、リンの机へも茶を置いた。ふたりのやり取りを只黙って眺めていたリンは無言ながら、焦れったいと若干眉が動く。 「あ!あの、来週の土日なんですけど、二日間お休みを頂いても良いですか?」  此の空気を誤魔化すかの様に、異様な程に明るく出たユキの声に、一瞬驚いたマオだが。
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