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「怪我は?」
マオが声を掛けた。静かで紳士的な雰囲気に、一瞬言葉を忘れた青年は、はたと気が付く。
「あ、いえ……あ、有り難うございました!」
「どういたしまして」
マオの腕の中、頭を下げる青年。此処で、漸く他の人々も動きを取り戻した。数名は急いでいるのだろう、横目に此の光景を視界に入れつつ、足早に去る者、後の数名はマオを囲み、賛辞を送りつつ何やら薄い板の様なもの――携帯電話――をマオへ向け、掲げている者が見えている。
「お兄さん、凄いねぇ!スポーツ選手か何か?あら、良い男じゃないか、俳優さんかね?」
年配の女性が笑顔でマオへ、声を掛けた。次には、若い男が。
「俺、何が起こったか分からなかったよ。あの、此の事をネットでやってる日記にあげても良いすか?」
マオは、予め調べておいた今いる人の世界の知識を巡らせる。
「いえ、只の会社員ですよ。日記は恥ずかしいな……動画と写真は勘弁してくれないか」
苦笑いを浮かべ、周囲へ順に受け答えるマオ。そんな中、其の腕の中固まってしまった青年を思い出し、地へ下ろしてやった。
「済まない、抱えたままで」
「いえ、そんな!……あの、本当に有り難うごさいました……!」
礼をするつもりで頭を下げた青年は、先程抱えられていた腕に覚えた不思議な感覚が胸に残っていた。ずっと昔にも、こんな感覚を味わった様な。そんな、不思議な感覚。
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