再会。

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 俯いている青年を前に、マオも複雑な心境でいたが、踵を返す。 「じゃあ、私も急いでいるので」  駆け出したマオを、其の場にいた者達が名残惜しげに見送る中、暫く呆けていた青年だったが、自身も急いでいた事情を思い出し、慌てて駆け出した。やがて、ひとり、ひとりと足を進めていく。其々、向かうべき方角へと。  元通りの喧騒を取り戻した光景を、再び空より眺めるマオの姿。先程触れた青年の感覚を思い出して、掌を眺める。ある程度の成長を遂げたとはいえ、まだ少年の面影を残す青年の体は少女の様に華奢では無くとも、細身であった。千年前に見送った時と変わらぬ体。マオは力無く広げていた掌を拳に変える。 「つい、此の前は幼子であったのに……ズーシュエ……」  呟くマオ。だが、あの青年に『ズーシュエ』の記憶は無い事を知っている。勿論、マオへの記憶も、思いも。ぼんやり、己の掌を見詰めるマオの背後に、気配を感じた。 「マオ様」  黒龍の城に仕える官吏が、二名で現れた。マオの背後から、厳かに揖礼をしている。 「何だ」  振り返らず静かに答え、見詰めていた掌をゆっくり下げたマオは、後ろ手を組んだ。其の視線は、青年が駆けていった地を見下ろしたまま。発言を許され、官吏が静かに口を開く。 「申し上げます。リン様がお呼びに御座います」 「御帰還、お願い申し上げます」  続くもう一方の官吏の声。 「そうか。わかった」    マオの言葉に、再び厳かに礼する官吏が姿を消すと、マオは今一度、空より青年が走り去って行った方を眺める。衣を翻し背を向けた其の姿は、空より消えたのだった。
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