39人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
少年少女の正体は
「それで? なんでお姫様が憲兵に追われていたの?」
雲海の中を突っ切っていく竜はのびのびと楽しそうに飛んでいる。
少年は柱に寄りかかり、どっかと胡座をかいて言った。
「まず、だ」
カナルは自分の前で堂々と座り込む少年に怪訝な顔を向けた。
ベル・スフィアスの皇族は表に出ることがない。だからエナルとカナルを皇女だと知るものは本当に少しだ。
「どうして私らが皇女だと分かった? それにそなたの名をまだ聞いておらん、名乗れ」
エナルはカナルの口調にため息をついた。
そして、
「今は皇女カナルじゃなくて、ただのカナルなんだから。口調はくずそうよ」
と小声で告げた。
カナルはそれを聞いて、ハッとしたように目を見開いた。
「俺はイヴ。二人のことはベル・スフィアスの姫の噂をちょっと小耳に挟んだことがあって、それで分かった。それと……」
イヴはおどけた様子でかしずいて続けた。
「敬語で話した方がよろしいでしょうか、お姫様?」
今更のように問うイヴに、エナルはクスッと笑った。
「イヴ、助けてくれてありがとう! 私たちは今はただの少女だから、気は使わないでね。それと私はエナル」
「私はカナル」
息ぴったりな二人にイヴも微笑んだ。
「分かった。それより……」
ぐうう……とイヴの腹が鳴った。
「腹、減らない?」
「減った!」
とカナル。
「少しだけ」
とエナル。
「よっしゃ、どこかで竜休ませて、昼飯にしよう!」
「それなら、このまま十時の方向に飛ばせて。少し先の森の中に、いい水辺があるわ」
間髪入れずに答えるエナルに、イヴは驚いた。
「この辺知ってるの?」
「いいえ。でもほら能力でちょちょいと」
「能力?」
不思議そうに首を傾げるイヴは、エナルとカナルを交互に見た。
カナルは答えた。
「ベル・スフィアスの皇族は能力を持ってるの」
「それ都市伝説じゃないの!?」
「本当の話だよ」
イタズラが成功した子供のようにニヤッとカナルが笑う。エナルも困ったような顔で笑った。
ぐんぐんと進んでいく竜の下に、深い緑が見え始めた。
「その辺かな」
「降りて」
竜はカナルの合図で、エナルが指差す場所に吸い込まれるように下降を始めた。
「俺の言うことなんて全然聞かないのに」
イヴが寂しそうに呟く。
「イヴの言うことを聞かないんじゃなくて、カナルの言うことだから聞くの」
カナルは特別、とエナルは言った。
竜はくるくると円を描きながら、目的の場所まで降りていく。
最初のコメントを投稿しよう!