二十六歳、夏。

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二十六歳、夏。

ー全部。 「確かに君は、手を伸ばすのをやめたかもしれない。だけど」  葉耶が微笑む。俺の心の氷を、温かく溶かしていくように。 「助けようって思って、手を伸ばしたのは本物だよ。悲しいって思ったのも、本物。嘘で過ごしてきた九年も、本当は必ずあったはずだよ」 ー全部、全部、見透かされていた。  俺の心も、想いも全部。 「ごめんなさい…。そして、ありがとう」  俺は格好悪く、泣きながらそう言った。
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