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プロローグ
赤い欄干の、戻り橋と呼ばれる橋がある。
あの世とこの世の境目、とでも言いたいのだろうか。
馬鹿馬鹿しい。
桃源郷だの治外法権だのといくら御託を並べたところで、ここは現代日本なのだ。地の果てでも海の底でも、そこが日本の国土である限り、日本の法律によって治められるべき場所なのだ。
そもそも、大々的に売春宿(遊郭、と銘打っているが、こう呼んで差し支えないだろう)を経営している時点で違法だ。
しかし、この『淫花廓』に捜査の手は伸びていない。
それはなぜか。
理由は至極明快で、『淫花廓』の顧客に政財界の大物や、警察の上層部、果ては検察の偉いさんや最高裁の重鎮なども名前を連ねているからであった。
長い物には巻かれろ、臭いものには蓋、君子危うきに近寄らず。
見て見ぬふりをする、身内のスキャンダルをなによりも隠匿したい警察組織の在り方に、異を唱える人間は、少ない。
表立って声高に、黒は黒、白は白だと叫べるのは、新人のときだけだ。
その新人も、警察組織に馴染むにつれて、目の逸らし方が上手くなってゆく。
なにを見て、なにを見ないのか。
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