プロローグ

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 それを覚えれば、一人前の警察だ。上司に可愛がられれば、出世の道が開ける。    しかし、ときに正義感の強い、権力に屈しない人間……まさに、正義の味方とでも呼ぶべき人間が、組織に混ざっていることがある。  彼らは自身の保身などはあまり考えない。  己が正しいと思うことを、真っ直ぐに貫き通す。  その姿勢は、本来は称賛されるべきものだが、組織として考えたときには、身勝手なスタンドプレー以外の何物でもなく、彼らの暴走が他の仲間たちの足を引っ張ることとなるのであった。    警察組織に、正しさは不要なのだ。  上に従順で、組織に埋没し、余計なことをしない人間こそが、重宝される。  それは、骨身に沁みてよくわかっていた。  だから、熱血のかたまりである後輩が声高に、淫花廓を捜査すべきだと上司に提案したとき、マズいなと思った。  どこから聞いてきたのか知らないが、迂闊に口にすべき案件ではない。  案の定、上司は苦い顔をして、大仏のように細い目をますます細めていた。  後輩はそれに気付かずに、意気込んでこぶしを握り、熱弁を振るっている。見ていられずに、あ~あとてのひらで目を覆った。  その日のうちに、上司に呼び出しを食らった。     
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