プロローグ

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 なぜ自分が、と思ったが、後輩の不始末は先輩の不始末。長々と説教されるんだろう。  覚悟を決めて、上司の後に続いた。  普段はあまり立ち入らない、窓のない会議室に連れていかれた。そして、一枚の紙を長机の上に置かれた。  なにが書かれているのかと目を通している内に、顔が強張ってくる。  なんだこれは……。    『身分秘匿捜査に関する誓約書』    整然とした文字が、そう並んでいる。 「淫花廓に、潜ってくれ」  大仏の上司がそう言った。 「あそこに潜って、淫花廓の行っている不法行為の証拠をすべて手に入れて来てほしい。おまえのツラならいけるはずだ」    潜る……つまり、潜入捜査だ。  『警察官』ではない警察が存在するということは、小耳に挟んだことがある。  潜入捜査官とも呼ばれる彼らは、警察官だということがバレないよう、警察官であるという記録すらすべて消される。  警察手帳なんてものはもちろん携行できないし、拳銃の所持だってできない。  彼らが警察であるという証明は、彼らに潜入捜査を命じた人間にしかできないのだ。  その、潜入捜査官になれと、大仏は言っているのだった。  警察官である己を捨て、淫花廓に潜れと。     
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