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第1話
『淫花廓』。
高級の上にも超が付く、現代の遊郭。
その敷地は広大で、外界とは川で隔てられている。
唯一、外と繋がれる場所が、通称『戻り橋』。赤い欄干の山なりの橋である。
この橋を渡れる人間は限られており、それは即ち、淫花廓の会員資格を満たしている者ということだ。
上流階級に所属する者の間では、この淫花廓の会員であるということが一種のステイタスにもなっているのだった。
……と、外の世界では仰々しく囁かれている淫花廓であるが、内側を開けてみれば、そこで暮らす男娼はさほど特殊でもない。
この淫花廓には、二つの建物が中心に据えられている。
『しずい邸』と『ゆうずい邸』。間に2メートルほどの川を挟んで隣同士に立つその建物は、古い旅館のようでもあり、外壁の赤や緑の色遣いは、旅館ではあり得ないみだりがましい気配を濃厚に漂わせていた。
『しずい邸』は、その名の通り雌蕊……雌の役割をする男娼が。
『ゆうずい邸』には、雄蕊……雄の役割をする男娼が住み込み、日々の生活を送っている。
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