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 ほんとうに、どうしてしまったのかしら。  真紅のベルベットカウチに腰を落ち着けたまま、ヴァイオレットは低く唸った。頭上にはクリスタルのシャンデリアが輝いて、美しく磨かれた板張りの床をきらびやかに照らしていた。色とりどりのドレスで着飾った貴婦人が黒い夜会服の紳士に導かれ、波間をたゆたう花のようにフロアを横切っていく。  よりにもよってなぜこんなときに。あくまでも平静を装って、金彩で縁を彩った羽根の扇子の陰で悪態をついた。  シャノンがホールを離れてから、どれほど時間が経っただろう。  浅い呼吸を繰り返す。優雅に広げた扇子を支える指先が小刻みに震えてしまっていた。首筋をつたう冷たい汗に身震いして、ヴァイオレットは考えた。  この息苦しさの原因は何だろう。昨日から今に至るまで、特別珍しいものを食べた覚えはない。だから食あたりではないはずだ。  それではほかに原因が? コルセットの紐をきつく締め過ぎた? 確かに今夜はいつもより張り切っていたかもしれない。
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