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 ヴァイオレットはこれまで、コルセットなどまともに使ったことがなかった。矯正下着などに頼らなくてもウエストは美しくくびれていたから、かたちだけ身に付けていれば充分だったのだ。  けれども今夜は別だった。彼女は出来る限りの美しい姿でこのフロアに立たなければならなかった。彼女のために不当な条件で社交界に引っ張り出された妹のシャノンのために。そして何より彼女自身のために。  確固たる地位と財産を持つ名のある貴族の妻になれば、来シーズンにはシャノンの後ろ盾になることができる。そうすれば、彼女は今より良い条件で夫選びができるし、たとえ貴族との結婚を望まなかったとしても、不自由ない幸せな生活が送れるはずだ。社交界にデビューしてからずっと、ヴァイオレットはそう考えてきた。  年齢や容姿など関係ない。とにかく家柄と評判の良い金持ち貴族の気を引いて、最も条件の良い相手と結婚しなければならない。上流階級に強い憧れを抱き、娘に爵位ある男性との結婚を求める父を満足させて、妹に望みどおりの未来を選ばせるために。
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