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ふたりがゆっくりと歩き出したとき、ベルベットのようになめらかな低音が庭園を満たしていた静寂を破った。
「待ちなさい」ラーズクリフ伯爵がふたりの前に回り込んで言った。「そのように乱れた姿のままでホールに戻らせるわけにはいかない」
レティがぴたりと歩みを止め、はっと我に返ったように振り向いた。彼女はすばやくシャノンの全身に視線をすべらせた。東屋のベンチの上で仰向けに寝たまま暴れたせいで、美しくまとめてあったシャノンの髪はくしゃくしゃにほつれていた。ドレスのひだもしわくちゃで、とても見られたものではない。
ラーズクリフ伯爵は夜会服の上着をすばやく脱ぐと、その上着でシャノンの肩を包み込んだ。
「裏口に馬車を回そう。貴女方は屋敷には戻らずに庭園を抜けて門に向かうといい」
「ご親切にありがとうございます。そうさせていただきますわ」
レティは礼儀正しく微笑むと、シャノンの肩に優しく触れて、屋敷の裏手に向かって歩きだした。
「待ってくれ」
しゃがれた声が妙にはっきりと耳に届いた。ラーズクリフ伯爵のものとは違う、少しざらついた印象の男の声だ。
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