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吐き捨てるようにそう言うと、レティはシャノンの手を引いて歩き出した。アーデンの鋭い舌打ちが聞こえて、同時にレティの身体が後ろに引かれた。
「待つんだ」
凄みの効いた低い声が冷たい空気を震わせる。見ると、白い手袋に覆われたラーズクリフ伯爵の手が、レティの細腕を掴んでいた。
「放して!」
取り乱したようにレティが叫ぶ。伯爵は動じた様子も見せないままに、宥めるように話し続けた。
「落ち着きなさい。確かに非情な提案に聞こえるかもしれないが、実際的に考えれば、アーデンときみの妹を結婚させることは道理に適っているんだ」
「馬鹿を言わないで! あんなけだものに妹を渡してなるものですか!」
レティが伯爵を睨みつける。伯爵は小さく悪態をついて、落ち着き払っていたその声を微かに荒げた。
「あんなことをされた後では信じたくもないだろうが、アーデンはいずれプラムウェル伯爵家を継ぐ立場にあるうえに、手掛けた企業も軌道に乗って彼固有の財産もかなりのものになっている。今現在独身の貴族男性のなかでも結婚相手としてはかなりの優良物件だ」
伯爵はそう言うと、頑として敵意を向け続ける姉から、怯える妹へと視線を移した。
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