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 ヴァイオレットにとっても彼女の父にとっても、そして勿論シャノンにとっても、今宵の宴は特別なものになるはずだった。  けれども、不都合が起きた。緊張のせいか、きつく締めすぎたコルセットのせいか、夜会会場に着いて間もなくヴァイオレットは不調を訴え、約束の場所に向かうことができなくなってしまったのだ。  この機を逃してしまえば、ラーズクリフ伯爵の姉への関心が薄れてしまうかもしれない。そう考えたシャノンは、姉が来られないことを伝えるために、そして次の機会を与えて欲しいと頼むために、ひとり夜会会場を抜け出して庭園の東屋にやってきたのだった。  それなのに――。  やっぱりわからない。レティの不調を伝えるためにラーズクリフ伯爵を探しに来たのに、見知らぬ男性に抱き締められて、キスされているなんて。  一体何が起こっているの?  庭園に月明かりはなく、東屋のなかは真っ暗だった。  彼が誰かはわからない。けれど、闇に溶ける黒っぽい髪色から、少なくともラーズクリフ伯爵ではないことが確信できた。
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