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私は、取り敢えず真奈美の後を追った。
おばさんが出口から出たところで、真奈美がおばさんを呼び止めた。
「ちょっとすみません。お会計の済んでいない商品をお持ちですよね?」
おばさんは、立ち止まり振り返ると、怪訝そうな顔をしながら、
「いいえ、ありませんよ!」
と答えた。
「他のお客様が見たそうです。お会計お願いします。」
「あなたが見たわけじゃないんでしょ。言い掛かりはやめて。」
「カバンの中、見せて頂いていいですか。」
「それで、潔白が証明されるならどうぞ。好きなだけ見ればいいわ。」
おばさんは、真奈美の前にカバンの口を開けて、見せつけた。
私は、真奈美とおばさんのやり取りを近くで聞いていたが、思い切って、真奈美のすぐ前に出た。そして、真奈美に向かってジェスチャーした。自分の胸の内側を指して、祈るような気持ちで…。
(胸のポケットを見て!)
真奈美が気づいて、おばさんの胸の辺りを確認した。
「あった。」
おばさんもさすかに諦めた様子で、大人しくなった。
真奈美は、あの頃と変わらない笑顔で、私を見つめた。そして、
「ありがとう。黎子(れいこ)」
と言うと、おばさんを連れて店の中に戻って行った。途中、真奈美が振り返ったので、私は
「また、来るね。」
とだけ伝えた。取り敢えず、真奈美の笑顔が見れたので、私は、それだけで大満足だった。
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