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そのお店は、去年のコンクール決勝で使われた会場のすぐ近くにあった。中に入ると、もう簡単に想像が出来ると思うが、すっかり私は二人の着せ替え人形と化していた。私をそっちのけに、二人はキャッキャ言いながら、あれでも無いこれでも無いと心底楽しんでいた。私の意見は度外視だ。
…いや、そもそも私は、メガネなんてキチンと物が見れるようになれば良い程度しか関心が無かったので、こうして周りが勝手に考えて決めてくれるのは、こちらとしても願ったり叶ったりだったので、文句は…無い。
まぁ…疲れはするけど。
と、そうこうしてる中、一瞬だけヒヤッとさせられる出来事があった。
というのも、そうこうしてる中、一人の店員さんが絵里に親しげに話し掛けてきたのだ。
それだけならまだ何でもないのだが、それに対して絵里も和かに返すと、店員は店内を一度見渡してから「…あれ?今日はあの男性はいらっしゃらないんですね?」と、満面の笑みで聞いてきたのだ。
「え?」と思わず、私、絵里、それにお母さんまでもが、手を休めて一斉にその店員に目を向けた。
「え、えぇ…まぁ…はい」と、何だか精一杯といった様子で、それでも笑顔は絶やさないままに絵里が曖昧な返事をすると、何かを察したか、「そうなんですねぇー…では、ごゆっくりー」と店員は大人しくスゴスゴと引き上げていった。大人な対応だと、私は呑気に感心していたのだが、その片方、当然まだ胸が強く脈打っていたのだった。
まさかこんな所で、義一関係に触れるとは思いも寄らなかったからだ。まぁ、毎年来てるとは聞いていたので、予測が立てられないと言えば嘘になるので、想定していなかった方が問題あるのだろうが、それでも正直な感想としては、ただただ驚いてしまった。
絵里もそうだっただろう。むしろ、私よりももっと驚いたのではないだろうか。そして、私と同じ理由で、義一の事に触れかけるというのも想定していなかったに違いない。『何でメガネを買いに行くのに、そんな義一に関連があるお店を選んだのか?』だなんて、勿論そんな風に絵里を責めるつもりなど毛頭ないとだけ断言させて頂く。
まぁこれに関しては、誰も義一の名前を当然出さなかったので無事通過となった…いや、それほど無事でもなかったかな?
少なくとも絵里個人に関しては、それほど無事じゃなかった。お母さんからの質問攻めにあったからだ。
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