4人が本棚に入れています
本棚に追加
簡単に言ってしまえば「その一緒に来ている男性って、絵里さんの彼氏?」といったものだ。これに対して、絵里はただ苦笑いで、やんわりと否定するのみだった。仮に義一と私たち家族の間の話が無くても、絵里のこの状況は変わりが無かっただろう。
何度かこの質疑応答が繰り返されたが、それほどしつこい性格でもないお母さんは、そんな絵里の態度を見て、何かしらの意味深さを感じ取った様だが、それ以降は、それ以上詮索する様な真似はしなかった。地元に帰って別れるまで、一言も話が出ないで終わった。
…代わりにというか、メガネを買ってずっとそれを掛けていたのだが、その間ずっと、二人して本人を前に、私のメガネ姿を話題に盛り上がっていたのだった。
次の日の朝。始業式当日。朝食を家族三人揃って取ると、一足先に出るお父さんを見送り、私も身支度を整えて、お母さんに声を掛けて家を出た。
今日は陽が出ていたが、まだどこか冬の残り香の様なものが残っていて、陽だまりは暖かったが、日陰に入ると、まだ風が吹いた時などはまだ肌寒さを感じるのだった。
「あ、琴音ー」
と、普段通りというか、いつもの待ち合わせ場所に近づくと、裕美の方から声を掛けつつ駆け寄ってきた。
「おはよー」
「えぇ、おはよう」
と私も笑顔で返すと、裕美も笑顔でいたのだが、ふと、グッと不意に私の顔のすぐ近くまで自分の顔を寄らせたので、私は思わず上体を後ろに引いた。
「な、なに…?」
と私が聞くと、裕美はすくっとまた元の位置に体勢を戻し、何だかつまらなさげな様子で顔つきは不思議そうに声を漏らした。
「…あれー?琴音、アンタ、何でメガネをしてないのー?買ったんでしょ?」
そう。裕美は既に私がメガネを掛けるようになった事を知っていた。
というのも、この春休み中に一度、絵里のマンションに揃って遊びに行った時の会話で、私の話が出ていたからだ。一緒に買いに行くことまで話していた。
当然…というか、裕美も途端に面白がって一緒について来たがったが、あいにく裕美自身に練習の予定が入っており、残念(?)ながらその場では私のメガネ姿を見る事が叶わなかったのだった。
まぁ昨日買ったばかりだし、それ程に大きな違いは無いと思うが。
「まぁー…ね」
と私は曖昧に笑みを浮かべつつ、手元の鞄に目を落とした。
「一応持ってきてはいるんだけれど…」
と私はここでチラッと裕美に顔を向けて続けた。
「…ふふ、何だか気恥ずかしくてね」
「ふーん…まぁ」
と裕美は私の言葉を受けると、つまらなさげな声を漏らしたが、顔を進行方向に戻して続けて言った。
「分からなくもないけどさぁー…って、私はメガネをしたこと無いから分からないけれど」
「…んー」
最初のコメントを投稿しよう!