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「う~ん、おいちぃ~!」
瞬く間にケーキを半分くらいまで食べた彼女が、大げさな感想を漏らす。
……おかしい。そのくらい食べれば、もうカプセルが顔を出すはずなんだけど。
「どうしたの? 食べないの?」
手が止まっている僕を不審に思ったのか、彼女が怪訝な顔をする。
……もしや、職人さんがカプセルを入れ忘れたんだろうか? なんて考えながら、フォークでケーキを切ろうとしたら――途中で何か硬い感触に阻まれた。
「……え?」
驚きのあまり声が出てしまってから「しまった!」と思ったけど、もう遅い。
彼女の表情を盗み見ると――クイズを出してくる時と同じような、イタズラっ子のようなニヤニヤとした笑顔を浮かべていた。
「やっぱり、何か入ってたんだ。フフ~ン! 私を出し抜こうだなんて、十年早い~」
「……気付いてたの?」
「そりゃあ、ねぇ? だって、なんかずっと私の方のケーキをジィっと見てるんだもん。何かあると思わない方がおかしいよ?」
――しまった。彼女にばれないように意識しすぎて、自然とケーキを目で追ってしまっていたらしい。
「怪しいなぁ、って思ったから、お湯沸かしてる間にケーキすり替えといた!」
「……全然気付かなかった」
多分、僕がコンロの火を眺めながらほくそ笑んでいた辺りで、すり替えたのだろう。こたつの上から完全に目を離したのは、あの時しかない。
一瞬の間に、音も立てずにお皿を入れ替えるなんて……どうやら彼女には、手品師の才能もあったらしい。
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