序 8月15日

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序 8月15日

ギィ、と金属の軋む音とともに重い扉を開ける。途端に湿ったぬるい空気が肌に纏わりついて来て眉を寄せた。喫煙者が多いこの界隈に対しても分煙の風当たりはきつく、数年前までは平気で楽屋で煙草をふかしていたのが今ではこうして外に設けられた喫煙所でしか煙草は吸えなくなってしまったのだという。一応ロビーにも灰皿は置いてあったはずだが、通りに面したガラス張りのロビーを出番を控えたこの時間帯に利用したいとは思わないだろう。 予想通り探し人はそこにいた。狭い建物だ、ここにいなかったら失踪とも言える。灰皿の隣に座りこんだ人影の隣に倣ってしゃがみこむ。 「おい華音、そんな行儀悪いことしちゃダメじゃん」 「別にいいでしょ、だれも見てないよ」 「いや分からんよ?向うのビルのおじさんとか」     
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