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丈の短いスカートを指して指摘するとこんなに薄暗くちゃ見えないよ、と笑うよく造られた人形のような表情。ステージの上でなら声さえも発しない、華音とはそういういきものだ。元々の中性的な顔立ちには女性向けのメイクをしてもよく映えた。それこそ声さえ発しなければ、長身の女性と見紛うように立ち居振る舞いも異性らしく。妹がいるから、母親が彼女に叱っていたことを留意すれば簡単だと言っていたのだった。ステージの上では「彼」はしっかり「彼女」を演じてきた。この一年半、長いような短いような時間からすれば、ほんの瞬きするような時間だけれど生来の自分を押し殺して振る舞ってきた。
手の中の煙草がちりちりと短くなっていく。もう吸えないそれを、捨てる素振りも見せない愁を不思議そうに見つめる華音のまだ幼さの残る表情。そういえばまだ二十歳にもなっていなかったか。
ベースが、作曲者としての腕が歳のわりに立つものだからもう少し年嵩なものだとばかり思っていた。こればかりは年齢とは比例しないものだと頭では分かっていたはずなのに。それとも、己を顧みて自分がこの歳の頃よりは振る舞いが落ち着いているからだろうか。そう考えて、つい口に出してしまった。
「――なあ、幸弥」
「え、なに。急にどうしたの愁さん」
膝を抱えて困ったように笑う。まるで全部冗談にしたいみたいな、実際そうなのかもしれない。信頼はしている。だけれどあまりお互いに本音を晒すような会話はしてこなかったように思う。お互いにそういう性格だから、というのもあるだろう。のらりくらりと軽口で諸々を躱すスタンスは似通っていたけれど、華音のそれは繊細さからくるもので愁のそれはただ単に面倒を厭っていただけだ。周囲には同じように思われていても、本質的に違うのは相対している自分たちが一番よく分かっていた。
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