序 8月15日

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また愁に倣ったように横に立った華音は目線だけを持ち上げて空を睨んだ。雨が降る直前の、土が湿ったようなそんな空気のにおいがするのだろう。なぜなら愁の方も同じようなにおいを感じているから。けれども降る、と確定させないのがこの二人らしかった。 せめて終わるまではもってほしい、と呟く華音になぜと問うとなにを当たり前のことを訊いているんだと言わんばかりの非難がましい視線が飛んでくる。 「そりゃあみんな傘なんて持って来ないでしょ、ここアーケードの中じゃないんだから濡れちゃうって」 「あー、それもそーね」 ライブハウスにはできるだけ手ぶらで来るものだ。たしかロビーには一応傘立てのようなものがあったようななかったような、記憶が曖昧だ。それにしたって手荷物は予め駅のコインロッカーにでも置いてくるのがマナーというものだ。たしかクロークのサービスもやっていたような気もするけれど、毎回ではないし。 「それもこれもあっちでやってやれない俺たちが悪いんでしょうねえ」 アーケードの方にあるライブハウス群で演るには、あまりにもこのバンドはキャパシティが足りなかった。この地域ではそれなりに名が知られるようになってきて、関東圏への遠征だって視野に入れられるほどだというのに、ワンマンで埋められるのはこの小箱くらいなものなのだ。 例え、今日のライブに「解散」という特別な箔をつけても。 「まあそこはうちの晴れ男……あれ、そんなのいたっけ」 「え、知らない。誰それ」     
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