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笑顔の転機
先日越してきたばかりのアパート、管理人室に呼び出され、僕は質問攻めにされていた。
共同生活を潤滑にする目的で、新規入居者に数々の質問をする伝統があるらしい。
「じゃあねーおみくん、好きなタイプは?」
とてつもなくフレンドリーな管理人さんに問われて、僕は宙を見つめて考える。
好きだなと思う人のタイプは。
「んー、反応が可愛い人が好きかなぁ」
これちょっと、答えるの照れくさいんだけど。
どうにか答えを絞り出したが、同様の質問はまだまだ続くらしい。
「えーと、恋愛経験はどんな感じ? 付き合ったことは?」
「恋愛経験、ですか……」
さらに照れくさい質問。
付き合うとか、したことがないけれど。
「あの最近、多分好きだった人に、彼氏を紹介されて寂しい気分になってました」
思い当たってしまった事実を口にする。
「最近かぁ……」
管理人さんは、少し寂しそうにつぶやく。
『多分』、好きだった。
好きだと思う前に、終わってた。
あれからずっと、苦しくて。
吐き出したいけれど、とても、誰にも、言うわけにはいかなくて。
……でも、苦しいから、吐き出したかった。
心配気に僕を見る管理人さんの眼差しに、僕は口を開いていた。
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