笑顔の転機

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 けれど、兄の自由過ぎる性質をちゃんと理解しているのだろう、すぐに気を取り直して、優しい笑顔で僕に挨拶をしてくれた。 「だから僕も兄に、優哉っていうんですが、優哉くんについてこれる人はそうそういないよ、奇跡だよ、良かったねって、言ったんです、けど」  胸が、比喩ではなく、痛んだ。  小さい時から一緒だった兄を取られたようで淋しくなっているのだと思った。  けれど、それにしては胸の痛みがなかなか引かなかった。  優哉くんが喜ぶから、ファッションで眼鏡をかけ始めて、クールなフリをするようになって。  優哉くんが役者になろうとするから、僕も演劇に興味を持って。  優哉くんの行動が奇抜で面白いから、そういう人を見ると好ましく思うようになった。  伊達眼鏡を差し出されて渋々かけたあの日、普段から幼い顔をしているのに、格別に愛くるしい笑顔を見せた優哉くん。  自分はあの日から、優哉くんが好きだったのではないか。  でも、それ以上は考えを突き詰めなかった。  好きになるはずがない人で。  恋人がいるから、好きだと思ってはいけない人。  好きだったのではと気づいているのに、好きだったのだと認める勇気がない。  認めたら、今までただの兄弟だと思って優哉くんを慕ってきたこの気持ちが、『良からぬもの』になってしまう気がして。     
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