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胸の痛みの正体を掴むことを放棄して、胸の痛みから逃れるように、色々と理由をつけて、僕は家を出た。
「兄のことが多分好きだったなんて、ちょっと、駄目ですよね」
管理人さんは僕の長話を飽きた様子も見せないで、穏やかに真剣に聞いてくれた。
そして、笑顔で言葉をくれた。
「そうかなぁ。仲悪いよりは断然いいよね」
仲は。
途中までは悪いと思っていた。
もし。
眼鏡なんてかけてられるかと突っぱねて、今も仲が悪かったら、と思うと。
胸の痛みなんて感じなかっただろう。
けど、優哉くんは僕に懐いてくれなかっただろう。
それは絶対、嫌だ。
「お兄さんがおみくん以外の人好きになって、おみくん、お兄さんが嫌いになったりしてないよね? ね?」
今度は心配気な表情になって、管理人さんが聞いてくる。
恐らく、プラスの感情がマイナスになっていないか、心配してくれている。
「それは、全然」
本当にそれは考えていなかった。
自分が苦しいのは優哉くんのせいだとか、こんなに好きなのに振り向いてくれないのかと恨めしく思ったりは、全くしていない。
……こんなに好きなのに、なのか。
僕はただ、自分で自分の気持ちを認められないのが苦しいだけ。
ただそれだけ。
「良かった、安心した!」
管理人さんが、再び笑顔を見せる。
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