2人が本棚に入れています
本棚に追加
「別に私は気にしないしわ。むしろ話してくれて嬉しかった。もちろん毎日毎時間、死にたいなんて言われたら、さすがに嫌気がさす。けど君の死にたいは違うでしょ?」
もちろん僕は死にたいって言葉を形にする事は少ない。
それでも……。
死にたいなんて他人に言うような事じゃない。でも言える人が……。
「欲しかったんでしょ?」
と、となりにはいない君が応えてくれる。
「別れが悲しくない人なんていない。死ぬのが怖くない人なんていない。だからこそ別れるまで、死ぬまではせめて一緒にいたい、一緒に歩きたいと思うものなの。違う?」
別れるまで、死ぬまで……せめて一緒にいたい、一緒に歩きたい。
か。
……君には勝てないな。
何故だかそう思ってしまい、ずっと悩んでいたモヤモヤが晴れていった。
ただやっぱり思うんだ。君と文字で会話をした事はあるけども、君の声も姿形(すがたかたち)も知らない。もちろんどこに住んでいて、どういう雰囲気を持っているのかも知らない。そんな人を好きになるなんて、それこそあり得ない。
会って会話してわかり合って、それから好きになるのが普通だ。
……普通だけども。
普通じゃないからこそ、好きになれる。周りにいる数多じゃないから好きになれる。
それが真実なのかは嘘なのかは分からない。
分からないけども少なくとも。
死にたいという言葉を受け止めてくれるのは君だけのような気がした。
また空を見上げる。
空にはいつの間にか白い雲がぷっかりと浮いていた。
なにもなかった青空に一つだけ。
もちろん今も僕のとなりには誰もいない。でも心の中にはたった独りだけ……。
【おしまい】
最初のコメントを投稿しよう!