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ふわりと、甘くて良い香りがする。
ゆっくりとゆっくりと、頭を撫でられている。
とても安心して、心地いい。
藤原が側にいるんだ、私を助けに来てくれたんだ。
やっと話しが出来る、藤原の声が聞ける。
私は早く顔が見たくて、まだ起きそうにない意識を必死に目覚めさせようとした。
「こらこら、無理して意識を起こさなくて良いんだよ」
聞こえた声に違和感を感じた。
これは、藤原の声じゃない。
私の意識がゆっくりと覚醒しだして、目を開けた。
「うーん、かえって起こしてしまったか、せめて声色を変えておくべきだったな」
起き上がろうとしたけど、身体が鉛のように重くて動かない。
顔だけゆっくり動かして声の聞こえる方を向いた。
そこには会いたかった藤原では無く、見知らぬ年配の男性がいた。
その男性の顔を見て、一気にあの夢のことを思いだす。
あの桜の木の下で出会った人が和服姿であぐらをかいて座って、私を困ったような顔で見下ろしている。
「無理に身体を起こしてはいけないよ、あれだけの穢れに触れたんだ。
でも声が出ないのは辛いね、ちょっと待ちなさい」
その人が優しく私の身体を起こしてくれた。
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