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---京都
一月二日。
新年明けてまだ二日ということもあり、京都の中心地は普段よりも遙かな賑わいを見せていた。
しかし、長い歴史を感じさせるこの大きな屋敷は、中心地から外れた由緒ある邸宅が立ち並ぶ地域の一角にあるということもあり、都会の喧噪とはかけ離れ、新年ならではの凛とした静けさと、冬の刺すような冷たさがそこにはあった。
東京の陰陽師を統べる長(おさ)である藤原光明は、時折当たる光で艶やかな色を醸し出す濃紺の三揃えスーツ、首元には深いグレーのネクタイを締め、髪は全て後ろに流し、障子から明るい光が差し込む広い畳敷きの部屋で、ある人物と対峙していた。
「光明(コウメイ)さん、本当にうちの孫との婚約を解消すると言うのですか?」
「・・・・・・何度も言っていますが、私はそちらのお孫さんと婚約した覚えはありません。
もう二度とそのような虚言を流布せぬよう、最後通告に伺っただけです」
弓削田家当主である弓削田佐代子はそのはっきりとした光明の返事を聞き、全く年齢にそぐわない上品な顔の眉間に皺を寄せた。
佐代子含め京都側の陰陽師は、光明を『ミツアキ』とは呼ばず、『コウメイ』と呼んだ。
それは安倍晴明の再来と、光明の力を目にした京都の重鎮達が思わず口走ったのが発端だった。
京都側は内部でそんな反応が起きたことに困惑した。
何故なら安倍晴明の血を引く者は京都にいるのであり、その者を差し置いて『半端者』である東京の陰陽師にそんな事を抱かせた事がプライドを傷つけたのだ。
だが京都トップが光明の事を皆が居る前でコウメイと呼んだことから、京都側の陰陽師達はしぶしぶそれに従った。
それを光明は、畏怖の対象としてすり込むのに好都合だと、そのままにしていた。
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