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「戻るか」
「う、うん」
平然と戻ってきた藤原に、私はこくこくと頷く。
藤原の後ろをのぞき見れば、さっき人形のように立っていた男も既に倒れていた。
藤原が地面を、靴先で何か円のように回し、最後トンと叩いた。
すると、まるで空の色が塗り替えられるように一気に暗闇から普通の空に変わっていき、気がつけばさっきいた歩道にいた。
「ゆい!」
「実咲!」
後ろから実咲の声がして、私は振り返る。
実咲がこっちに走ってきて、その後ろには見知らぬ男性に背負われ目を瞑ったままの塔子がいた。
「塔子は?!塔子は何かされたの?!」
うろたえる私に、側に来た実咲が答えた。
「大丈夫。気を失ってるだけだから」
「実咲は?実咲はどっか怪我してない?!」
「大丈夫、大丈夫」
手をひらひらとさせていつもの笑顔を浮かべた実咲にほっとする。
すると側に居た藤原が私から離れ私達に背を向けた。
「風間、先に二人を連れて学園内に戻れ」
「はい」
私達に背を向けた藤原の声は、さっきまでの声では無かった。
そんな藤原と実咲のやりとりにびくりとする。
そう、このやりとりの声と雰囲気を、私は皇居で味わっているのだ。
私はすぐ側の実咲を強ばった顔で見る。
実咲は少し困ったような顔をすると、
「後で話すからとりあえず戻ろう」
そう言うと、学園の方に歩き出した。
その横を塔子を背負った男の人が私に先に歩くよう、促すような表情をした。
周囲を見れば、道路には車が一台もなく、知らない大人達が藤原の回りにいて、倒れている男達の周囲にも知らない男性や女性がいた。
私はどうしても最後、藤原に声をかけたかった。
でも少しだけ見たその横顔はもう、私が学校で見る教師の顔では無かった。
私は目を伏せると、藤原のいる場所に背を向けて歩き出した。
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