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広い部屋の中央に立つ侍女が手にしているのは、大型の竪琴。
「得意な曲はありますか?」
ユリアスの母親である公爵夫人に訊ねられ、リューティスは少しだけ首を傾げた。
「聞いたことのある曲でしたら、よほど難しい曲でなければ弾けます」
リューティスの知識にある曲は、さほど多くない。それは、これまでの人生において音楽というものとほとんどかかわりがなかったためだ。
とはいえ、有名な曲であれば大体わかる。育ての母親から一般常識として教わったためだ。そして、知っている曲ならば大抵弾くことができる。音の通りに指を動かすだけだからだ。
「……竪琴は得意ではないのですよね?」
「はい」
リューティスは夫人の質問に対してきょとんとしつつ、首肯した。
「…………まぁいいでしょう」
夫人は用意されていた椅子に腰を下ろす。その隣にユリアスが座った。
部屋を決め、クレーネーの今後に必要になる物を買いそろえた後、ギルドでしばし手合わせを行い、二人で昼食を取り、屋敷にはリューティスだけ戻ってきた。クレーネーは今頃、ギルドでパーティーを探しているだろう。彼は今日からあの部屋で暮らすことになる。帰るべき家があの部屋になるのだ。
そのため、この場にクレーネーはいない。リューティスが首都にいる間は、一日一度は様子を見に足を運ぶつもりだ。
屋敷に戻ったリューティスを待ち受けていたのは、公爵夫人であった。仕立て屋が来るまでもうしばらく時間があるとのことで、竪琴と歌の腕前の確認をされることになったのである。
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