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しかし、公爵はさておき、リューティスを婚約者に選んでくれた彼女は、別段、面食いということはないだろう。エルフ族の血を引くリューティスの容姿は、どうやら人間族にとって、一般的に整っていると感じられるものであるようだが、男らしさは全くないのだ。面食いな女性ならば、男前な顔立ちを選ぶのではなかろうか。
「いつまで膝をついていらっしゃるのです。早くこちらに座りなさい」
「っ……かしこまりました」
アグネスは夫人に命じられて、リューティスとユリアスに対して向かい合って座っている夫人の、斜め隣の一人掛けのソファーに腰を下ろした。
「紹介しますわね。リューティス様、こちらは私とユリアスがよく利用している仕立て屋の赤帽子というお店の店主のアグネス・ファインです」
アグネスは立ち上がると美しい跪礼をした。
「アグネス、こちらはユリアスの婚約者となったリューティス・イヴァンス様です」
リューティスも立ち上がって略式の貴族の一礼をした。
「お初にお目にかかります、イヴァンス様。仕立て屋、赤帽子の主人をしておりますアグネス・ファインでございます。以後、お見知りおきを」
「丁寧な紹介をありがとうございます。ギルド“月の光”所属のAAAランク冒険者、リューティス・イヴァンスと申します。よろしくお願いいたします」
アグネスは再び目を見開いた。
「まさか、あの噂の“雪妖精”殿でしょうか……?」
リューティスは己の顔から表情が消え去るのを感じた。この二つ名擬きはどこまで知れ渡ってしまっているのだろうか。アクスレイド公爵が知っているのは、ユリアスに近づいたリューティスの素性を探っていたからであろうが、冒険者とは全く関わりを持たないだろう仕立て屋を営む彼女まで知っているということは、もう諦めるべきなのかもしれない。
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