六章 仕立て屋と衣装決め

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   つぶやきは止まらないが、その手も止まらない。瞬く間に絵が描かれていく。 「切れ込みを入れるのもいいのですが、ただ切れ込みをいれるのではなくて、レースにしてはどうでしょう」 「レース」  夫人の言葉に手を止めたアグネスはかっと目を見開いた。 「……レース、……レース、……レース」  繰り返し呟いたと思いきや、画帳を捲り、勢いよく一から描き直し始める。 「刺繍は鳳蝶と百合の花でお願いいたしますね」 「……ちょう、ゆり……」  アグネスの手は止まらない。しかし、ユリアスの声はきちんと聞こえているようだ。  ユリアスの指先が、リューティスが贈った婚約指輪を撫でていることに気が付き、無言のまま目をそらす。彼女はあの指輪に透かし彫りにされた鳳蝶と百合の花の意味に気が付いているのだろうか。 「ネックレスはどうするのです?」 「こちらをつけます」  ユリアスは胸元に触れた。そこに何があるのかリューティスはよく知っている。なぜなら、リューティスの魔力があるからだ。  ニアン学園に通っていた頃、彼女の誕生日に贈った王蒼魔石の魔法具──あれならば見劣りすることもないだろう。  頬に熱が集まるのを感じる。 「それならいいでしょう。靴はどうしましょうか」 「リューティス様は背が高いので、踵は高めにしなければなりません」 「そうでしょうね」 .
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