六章 仕立て屋と衣装決め

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  「リュース君が前に来た時も春でしたね」 「……そう、ですね」  リューティスが以前ここに足を運んだのは、ユリアスが暴漢に襲われたときであった。あの時のことは思い出したくもないが、ここでユリアスに勉強を教えたことは覚えている。  庭園を見回す。以前とは様子が異なっている。以前、ここに植えられていたのは、小さな桃色の花を咲かせた魔草だった。だが、今は様々な種類の魔草が青色の花を咲かせていた。 「気が付きましたか? セフィさん……、庭師の方が婚約のお祝いに青い花を植えてくださったんです」  婚約祝いといっても、実質的な婚約者になったあの時以降に植えたのだろう。つい最近植えた様子ではない。  しかし、なぜ青色なのかと考えて、しばしの間をあけて意味を理解し、顔に熱が集まった。 「ふふっ、リュース君可愛い」  彼女に頬をつつかれて、顔をそむける。 「……僕は男です」 「知ってますよ」  形だけ言い返しつつ、喜びを感じている己に呆れる。腕を引かれたまま、東屋まで歩き、木の椅子に隣り合って座った。腕から伝わってくる彼女のぬくもりに、鼓動がおさまらない。  ユリアスは“ボックス”を開いて中から数冊の教科書を取り出した。 「三年から高度詠唱魔法学と高度魔方陣魔法学が選択科目であるんですが」  ユリアスは本の表紙に書かれた文字をなぞった。本の題名は『詠唱魔法学の応用』、『魔方陣魔法の応用とその対策について』、『最上級詠唱魔方陣辞典』、『術式辞典』だ。 「私、両方取ろうと思ってるんですけど、高度魔方陣魔法学の方がすごく難しくて……」 .
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