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「……お兄ちゃん、どこにいるの」
「え、あー……」
クレーネーは返答に困った。正直に答えていいのかわからない。師匠は大きな秘密を抱えており、そのことについてこの少年がどこまで知っているのかわからないのだ。付け加え、クレーネーは師匠についてどこまで話して問題ないのか理解していないのである。
おそらく、婚約に関しては話しても問題ない内容なのだと思うのだが、話してしまってから実は他言無用の内容だったということになるのは避けたい。
「うーん、次に会ったときに師匠に伝えておくよ。師匠の弟が会いたがってたって」
「……ぼくが会いに行くことはできないの?」
「ごめん、おれ、どこまで話していいのかわかんないから、師匠に聞いとく」
師匠の弟は俯いた。その顔が今にも泣き出しそうにゆがんでいることに気が付き、慌てる。
「ご、ごめん」
師匠の弟は黙って首を横に振る。
「……お兄ちゃん、ぼくに会いたくないのかな」
クレーネーは目を泳がせた。師匠の心境は正直、正確にはわからないが、この間、弟の話を聞いた時は、師匠は弟に対して無関心なのだと感じた。つまり、会いたいとも会いたくないとも思っておらず、必要性を感じないから会わないだけではないかと思う。
「……ごめん、それは師匠に直接聞いて」
何と言い返したらいいのかわからず、そう答えるしかなかった。
「おい、ライ。いつまで話してんの?」
師匠の弟の前に並んでいた少年が振り返った。その顔は険しい。
「ご、ごめんなさい」
「ったく……“氷剣”の子どもで“雪妖精”の弟だって聞いたから入れてやったのに、お前、使えない上にとろいな」
「ご、ごめんなさい……」
前に向き直って頭を下げる師匠の弟の顔は見えない。
「お前がこんなんなら、“氷剣”も“雪妖精”も大したことないんだろうな」
鼻で笑うその少年に、クレーネーは怒りを覚えた。
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