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「ねぇ」
「あ?」
少年はこちらを見下ろしてきた。クレーネーよりも幾分か歳上であろう。十三歳くらいだろうか。
クレーネーはそんな少年を睨み返す。
「師匠……“雪妖精”のこと何も知らないくせに馬鹿にしないで」
「師匠? はんっ、お前、“雪妖精”の弟子か? こんなちんちくりん弟子にすっとか、ほんと、“雪妖精”って大したことないんだな!」
嘲笑うその少年に、クレーネーの堪忍袋の緒が切れた──その瞬間だった。唐突に何かが少年を弾き飛ばした。何が起こっているのか全く把握できなかった。少年は天井まで大きく跳ね上げられ、天井にぶつかり、落下してくる。
ふと、目の前に背の高い人物が立っていることに気が付いた。黒い服に身を包んだ金髪の男だ。その姿には見覚えがある。
「ローザンさん……?」
ぴりぴりと張りつめた空気が彼を取り囲んでいた。ローザンは落下してきた少年の胸元を掴んだ。少年の身体は地面に落ちることなく、ローザンの右腕によって宙吊りにされる。
「……あの方がなんだって?」
クレーネーは思わず肩を震わせた。地を這うような低い声だった。クレーネーはローザンのそのような声を聞いたことがなかった。
「あの方を馬鹿にするならば、俺が相手になるが? それとも零番隊も馬鹿にするか?」
静まり返ったギルド内にローザンの声が響く。糞尿の臭いが漂ってきた。ローザンが手を離す。少年が床に落ちて、べしゃりと音がした。
「この程度で失禁か。話にならんな」
ローザンがこちらを振り返る。クレーネーを見下ろし、しばしの間をあけて、手を伸ばしてきた。少年の胸元を掴んでいた手とは反対の手が、クレーネーの髪をかきまわす。
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