八章 招待状

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  「今日の予定はあけておいてくれましたか?」 「はい」 「よかった」  柔らかな笑みを浮かべる彼女から目をそらす。 「ふふ、リュース君可愛い」 「……僕は男です」 「知ってますよ」  反射的に形だけ言い返した。  彼女と並んで朝食を取り、その後、紅茶を楽しむ。 「あ、リュース君」 「はい」  彼女に名を呼ばれて視線を向ける。 「婚約式の日程なんですけど、第十一の月の始めに予定しています。予定とか大丈夫ですか?」 「はい」  大分先のことであるし、今のところ特に予定はない。今後、何かしら用事ができるかもしれないが、第十一の月の始めを避ければいい。 「よかった。予定日の確定はもうしばらく先になりそうですが、先に招待状をおくらないといけないですね」  貴族の婚約式や婚姻式は、基本的に半年以上前に大体の予定を決めて招待状を送り、二月前までに正確な日程を決めて、その知らせを送り直す。それは、遠く離れた場所で生活している者を招待しようとすると、どうしても準備や移動に時間がかかるからだ。  招待する側が非常に裕福な家ならば、招待客のために転移魔方陣を用意し、宿泊場所も用意し、越境許可も申請して、招き寄せる。当然、公爵家であるアクスレイド家はとても裕福で、おそらく招待客を呼ぶために転移魔方陣も用意するだろう。そのため、移動にはそれほど時間がかからないはずであるが、招待状を早くに送るのは貴族の間での古くからの習慣であり、それにあえて逆らう必要はない。 .
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