八章 招待状

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   しばらくしてユリアスが戻ってきた。 「お待たせしました」  笑みを浮かべた彼女は、質素なワンピースに着替えていた。これならば裕福な平民の女性に見えるだろう。とはいえ、彼女は動作に貴族の子女らしい品があり、平民から見れば貴族の姫であることがわかってしまう。  しかし、こういった服装をしていれば、平民はお忍びであると理解して、無礼をせぬように注意しつつも、平民の扱いをするのである。 「似合いますか?」  ワンピースの裾をつまんで笑んだ彼女から目をそらす。顔が熱い。 「……はい」 「よかった」  彼女の細い腕がリューティスの腕に巻き付いてきた。そのまま彼女に腕を引かれて、リューティスは部屋を後にした。  屋敷の前には普段よりも質素な馬車が用意されていた。その馬車に乗り込み、転移魔方陣を使用しつつ、平民街の南部へと向かう。 「リュース君は大道芸を見たことはありますか?」 「はい。……南の国でガイアが連れていってくださいました。クレーネーも一緒でしたので、子供でも楽しめる場所に、と」 「そうなんですか」  ユリアスは目を細めた。 「私もほとんど見たことないから、一緒ですね」  一緒という何気ない言葉を聞いて、不意に沸き上がってきた喜びに困惑しつつ、外に視線を向ける。 .
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