八章 招待状

9/21
前へ
/2323ページ
次へ
  「リュース君? ……どうしたの?」  その声に首を傾げかけて、気が付く。無意識のうちに彼女の腕が絡められた左腕を引いていたのだ。 「……すみません、なんでもありません」 「そう? ……なにかあったら言ってくださいね」  彼女は少しだけ心配そうな顔をしたが、すぐに前に向き直った。  ──ジャグラーが火の玉でジャグリングし、ピエロが火の輪をくぐって姿を消し、歌姫が青い鳥型魔物と共に歌を奏でて、従魔師が操る小型魔物たちがそれに合わせて踊る。エルフ族の軽業師が宙を飛ぶ箒から箒へと飛び移り、そこから力自慢の大男が持ち上げた巨大な岩の上に飛び移り、大男がピエロへとその大岩を投げつけると、軽々と跳びあがって大男の頭の上に立った。ピエロは慌てた様子で壁魔法を展開させて大岩を受け止めて、大げさに安堵した素振りを見せた。  舞台で次々と繰り広げられる曲芸に、広場にいた大人も子供も釘付けになっていた。  リューティスはふとよく知っている魔力が広場の方へと近づいてくるのを感知した。反射的にそちらの方に視線を向けるが、あまりの混雑にここからではその姿は見えない。 「……ユリ」  腕を引き、舞台に夢中になっている彼女に声をかける。 「ん?」  彼女はこちらを振り返って首を傾げた。その距離があまりに近いことに気が付き、今更ながらに鼓動が乱れる。 「……あの、その……、レイトと有舞の魔力が」  二人の魔力を感じる方へ視線を向けた。勿論、彼らがいるのは人混みの中であり、ここからでは全く見えない。 .
/2323ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25095人が本棚に入れています
本棚に追加